平成20年度 図書館情報メディア研究科プロジェクト研究(萌芽)

視覚運動性手続き記憶に関する心理学的研究

使いやすいシステムや魅力的なコンテンツを製作するためには、人間の認知特性を理解することが不可欠である。本研究室では、人間の認知特性について、心理実験を行い研究している。本プロジェクトでは、人間がどのようにして複雑な手続きの系列を学習し、それを実行しているかを調べている。これは例えば、ケータイを手元を見ずに操作したり、ゲームの盤面を次々とクリアしていく過程に関係していると考えられる。

関連発表

1. 坂田正伸・森田ひろみ (2008). 視覚運動性手続き記憶におけるチャンク構造. 日本心理学会第72回大会発表論文集, 871.

2. 坂田正伸・森田ひろみ (2007). 視覚運動性手続き記憶における視覚手がかりの効果. 電子情報通信学会技術研究報告, 108, 103-108.

【 まとめ 】

【 結果 】

1. 46個のボタン押しをひとまとまりに

して学習している

3. 何番目の面のボタン押しかという情報も利用される

【 実験方法 】

実験環境手続き系列の記憶のメカニズム手続き系列の再生のメカニズム

6. 手続き系列の記憶のメカニズムのモデル

 

手続き系列を記憶するときは以下の情報を記憶する

 ・チャンク内のボタン押し順序(青)

 ・チャンク間の連結関係の情報(赤)

 ・チャンクの実行ステージ(実行順序)の情報(緑)

7. 手続き系列の再生のメカニズムのモデル

 

手続き系列を再生するときは、チャンク間の連結関係の情報とチャンクの実行ステージの情報に基づきチャンクを正しく並べて系列を再生する(青矢印)。このとき、何らかの理由で連結関係が利用できない場合、実行ステージの情報に基づき系列を再生するため、他の系列が侵入することがある(赤矢印)。

ボタン提示パターンにより形成されるチャンクのモデル

4. ボタン提示パターンにより形成されるチャンクのモデル

セット内のボタン押しタイミングのグラフ

5. セット内のボタン押しタイミング

1. 侵入エラーの内訳

以上の結果から、以下のような手続き系列の記憶と再生のメカニズムのモデルが考えられる。

実験環境としては、図1のように実験協力者が椅子に座った状態で行った。実験協力者の反応は、タッチパネルディスプレイを通してコンピュータに記録された。ディスプレイは、実験協力者がディスプレイ画面を見下ろすような位置にディスプレイアームで固定した。椅子の高さ、タッチパネルディスプレイの傾きは、実験しやすいよう実験協力者自身に調整してもらった。

・実験1

実験には、総行程数が24のボタン押しについて、2ボタン押しからなるセットが12個提示される[2x12]課題、以下同様に、[3x8], [4x6], [6x4], [8x3]課題を用いた。[2x12]課題を例にして手続きを簡単に説明する。タッチパネルに4x4行列のボタン枠と2つのボタンが赤く点灯する。このボタンにはあらかじめ押すべき順序が割り当てられているが、実験協力者には知らされておらず、試行錯誤により正しい順序を探す必要がある。このようなボタン押しを繰り返し、12個のセットをすべて正しい順序で押せたら正解試行とする。この正解試行を合計30回達成することで課題終了となる(図2)。得られた結果について、個々のボタン押しに要する時間(ボタン押しタイミング)について分析を行った。

・実験2

実験には、4ボタン押しからなるセットが5個提示されるボタン押し課題([4 x 5]課題)を用いた。まず、通常のボタン押し課題である原学習を行い、その直後に、原学習と同じボタン押し系列を用いるが押すべきボタンが点灯しない再学習を行った。このような学習-再学習を5系列分行った後、これらの系列の中からランダムに選ばれた系列の最初のセットのみボタンを点灯させて系列全体を再生させた(図3)。得られた結果について、原学習と再学習のボタン押しタイミングおよび再生テストにおけるエラーについて分析を行った。

1. 実験環境

あるセットのボタン押しを行うべきところで他のセットのボタン押しを行ったエラーを「侵入エラー」とした。侵入エラーの内訳を見ると、実行すべきセットと同じ実行順序(実行ステージ)にある他系列のセットが侵入するエラーが高い確率で現れることがわかった。このことは、系列の学習時に、チャンクの実行ステージの情報も学習されていて、再生時にその実行ステージの情報を利用して系列を再生していることが考えられる。

2. [2x12]課題の例

再学習手続き

3. 原学習、再学習および再生テストの例

再生テスト手続き2x12課題手続き原学習手続き

2. 学習したときのリズムが実行時の

リズムを支配している

 

 

実行された(侵入した)セット

合計

 

 

1セット

2セット

3セット

4セット

5セット

実行すべきセット

1セット

0

0

0

0

0

0

2セット

3

64

41

15

1

124

3セット

5

27

82

41

10

165

4セット

6

11

26

95

30

168

5セット

4

12

11

32

143

202