静的署名認証支援システムの研究

松原洋充
 人間は文字や画像を用いることにより、非常に多くの情報を伝えると同時に多くの情報を 読み取ることもできる。たとえば写真からは、それに写っている人物や場所を判断したり、 ひらがなや漢字といった複雑な形の文字を崩して書いた場合でも、特に苦労もなく認識する といったことができる。人間のこういった画像や文字を認識する能力については多くの研究 がなされている。同時に、人間の脳の働きを調べたりシミュレートする試みも行われ、その 一部の機能については計算機によって実現されるようになった。将来には脳の働きを再現し た画像認識などが可能になるかも知れないが、現段階ではまだ画像の処理と認識は非常に困 難な面が多いのが現状である。画像認識、文字認識では主に、画像の入力、入力された画像 の雑音除去や2値化といった前処理、前処理された画像から線や領域の特徴といったものを 抽出する特徴抽出、抽出された特徴と標準画像とのマッチングを行う4つの過程からなる。 だが画像認識においては、対象物の画質や前処理の方法、特徴の抽出の仕方やマッチングを 行うパターンをどう定義するかなど、特に特徴抽出と類似度の判定を中心としたプロセスに 問題が多い。認識する対象によって経験的あるいは発見的な手法が、場合場合で用いられて いるのが現状である。
また文字認識の応用として署名の認証を行う研究もなされている。タブレットなどの専用 の入力装置を使用し、筆圧や筆順と行った情報を利用する動的署名認証では、認識率も高く 実用化されている。しかし筆跡情報だけを利用した静的署名認証ではまだまだ困難な点が多 く、認識は難しいのが現状である。
そこで現在用いられている画像認識や文字認識の手法のいくつかを用い、静的署名の認証 システムを構築し、認識する上での問題点や特徴について考察していきたいと考えた。 本システムでは、入力された署名の画像に対して前処理の段階で2値化画像とし、入力さ れた画像のX方向Y方向のヒストグラムを作成、およびエッジ抽出による特徴の抽出を行い 認証を試みた。その結果ヒストグラムによる特徴抽出では、特にY方向に投影された形から は英文字の場合大文字小文字のといった違いが出やすく、エッジ抽出後には単語間の境界な どがより顕著に見られるようになり、文字の分割などに役立つと考えられる。しかしこれは 英文字、特に活字では有効な点も多いと思われるが、手書き文字のひらがなでは文字の大き さや画数の差が少なく、漢字では複雑な形状や様々なフォントを持つために差が出にくくな るという問題があった。また人間が署名の筆跡を真似て書く場合には、文字の細かな特徴は 真似しやすいが、全体的な雰囲気つまり筆圧よる文字幅の変化や、微妙な字詰めの間隔、全 体の傾き具合等といったことは偽造しにくい。システムを構築する際にこのような特徴をう まく利用することで、より正確なシステムを構築できるのではないかと考えられる。ただし 筆圧の情報などは動的手法では抽出が容易であるが静的手法では困難であり、この点も動的 認証よりも研究が遅れている原因の1つと考えられる。これらを抽出する巧みなアルゴリズ ム、あるいは学習や推論機能といった計算機の進歩が今後の課題になってくると考えられる。