金属におけるフェルミ面の3次元グラフィックス表示

須藤 真樹子
 金属の電気的・磁気的性質を決定するものとしてフェルミ面がある。金属中の 電子のとり得るエネルギーは波数ベクトルkの関数であるが、波数ベクトル空間 でエネルギーがフェルミエネルギーに等しいような等エネルギー面をフェルミ面 という。絶対零度ではこの面より内部は電子が占めており、外部には電子はない (電子フェルミ面)。自由電子に対してはこの面は球面になるが、実際の結晶中 の電子に対しては複雑な形になる。金属に電場や磁場を加えたとき、あるいは温 度が上昇したときに応答できるのはフェルミ面付近の電子だけであるので、フェ ルミ面やフェルミエネルギー付近の等エネルギー面の様子は金属の物性を研究す る上で重要であり、理論や実験の両方から数多く研究されている。  フェルミ 面を表現するために、かつては、フェルミ面の形状の模型を作成したり、手描き で描く、あるいは展開図として描くなどの手法が使われていた。しかし、これら の手法は作成にかなりの労力が必要であり、また、一方向からしか見ることでき ないことや、系統的に同じ手法で描かれていないために他の物質との比較がしづ らい等の問題点があった。そこで本研究ではコンピュータグラフィックスを用い て、フェルミ面を任意の方向から観測したり、フェルミエネルギー付近の等エネ ルギー面がどのように変化するのかをエネルギーの変化に対して連続的に表示で きるようなシステムを作成することを目的とした。
 先行研究としてGL(Graphics Library)を用いた同様なシステムが作成されて いるが、これらはハードウェアに依存するという問題点があるため、本研究では ハードウェアに依存しないOpenGLというライブラリを用いて新たにシステムを構 築した。
 入力データとしてエネルギー固有値、波数空間座標、対称変換行列、逆格子 ベクトルといったデータを用い、既約領域(対称性を考慮した最小の領域)から 全空間への拡張、平行六面体ならびに三角柱から四面体への分割、四面体の各辺 での線形内挿などの方法を用いてフェルミ面の作成を行った。ただし、結晶構造 としては面心立方構造(fcc)や体心立方構造(bcc)などいくつかの種類が存在する が本システムでは六方最密構造(hcp)をとる物質にのみ対応している。
 このフェルミ面表示システムのデータファイルの例として、hcp Ti、hcp Sc の2つを用意しているが、他の六方最密構造をもつ金属であれば同様にフェルミ 面を表示することができる。これらの金属はボタン操作により選択することがで きる。システムの機能として他には、バンド変更、エネルギー値の変更、回転、 拡大・縮小、視点変更等があるが、これらもマウスによるボタン操作で簡単に行 えるようにした。
 現段階の問題点としては、面と面のつなぎ目が滑らかでないことが挙げられる 。この問題の原因は面と面のつなぎ目で一つの頂点が複数の法線ベクトルを持っ てしまうことである。これは複数の法線の平均をとること等で滑らかになると予 想される。
 このシステムによりフェルミ面表示は容易なものとなり、さらに金属物性の研 究にも大いに役立つものと考えられる。今後のシステムの拡張としては、面心立 方構造、体心立方構造等の他の結晶構造にも対応できるようにすること、またフ ェルミ面の任意方向に対する断面図や、その断面積などの表示が可能になること が望まれる。