ブリルアン・ゾーンの自動作成システム

 

吉澤 梓

 

物質の多くはその構成要素である原子が規則的な配列をしており、いわゆる結晶状態を形成している。これには周期性や対称性が存在しているので、より簡単な数学モデルに置き換えることが可能となっており、実際、物質の物性を研究する場合には、ブリルアン・ゾーンという領域を単位として考えればよい事が多い。このブリルアン・ゾーンは様々な結晶構造に対して定義される。

ブリルアン・ゾーンは実格子とは異なる対称性を持つ逆格子空間で定義される領域であるが、物質の構造を知る上で重要な空間である。実際にX線などを用いた回折実験では、この逆格子空間において物質の結晶構造を求めている。ブリルアン・ゾーンは原点と逆格子点を結ぶ直線の垂直二等分面に囲まれる領域である。第一ブリルアン・ゾーンでは原点から、垂直二等分面を一度も通らないでいける領域であると定義され、原点を含む最小の領域である。ブリルアン・ゾーンを表現するには、これまでは主に手描きで描くという手法が使われてきたが、複雑な結晶構造に対するものは、ゾーンの形状を把握することが難しく、作成にかなりの手間が必要な場合もあった。また一つの方向からしか見ることができないことから、ゾーンの形状の把握が難しい等の問題点もあった。そこで本研究では、物性研究におけるブリルアン・ゾーンに関する理解を助けるために、3次元グラフィックスライブラリであるOpenGLを用い、任意の結晶構造に対するブリルアン・ゾーンを3次元コンピュータグラフィックスで自動作成することを目的とした。

 本研究では、実格子の基本ベクトルを入力データとし、その値を元に逆格子の基本ベクトルならびに、逆格子点の座標を求める。それを元に原点と逆格子点を結んで得られるすべての逆格子ベクトルの垂直二等分面の式を求めて、第一ブリルアン・ゾーンを描画するシステムを構築した。ユーザインタフェースとして、拡大、縮小、回転などの機能を与え、あらゆる方向からそれを見ることができるようにした。また、入力された基本ベクトルの値、求められた逆格子の基本ベクトルの値を表示できるようにして、その数値と、ブリルアン・ゾーンの形状の関係を知ることができるようになっている。

 また、本研究では当初、第一ブリルアン・ゾーンのみでなく、更に高次のブリルアン・ゾーンの表示まで可能にすることも目的としていたが、それには至らなかった。今後、高次のブリルアン・ゾーンの描画を可能にすることにより、また、逆格子点の表示など更なる機能の追加により、より実用性の高いシステムにすることができると思われる。

 

(指導教官 松本 紳)