仮想図書館の構築


苗加 佳世
現在、自館のホームページを開設し、インターネットを介して様々なサービスを行って いる公共図書館が増えてきている。これらの公共図書館Webサイトで提供されるサービスに は蔵書検索(WebOPAC)、貸出予約、地域情報の提供、レファレンスサービス、電子化され た一次情報の提供(貴重書など)、図書館報の提供などがあげられる。また、様々な機関で 「電子図書館」に関する研究が進み、実際に多数の電子図書館システムが運営されはじめ ている。このような公共図書館のホームページや電子図書館で提供されている蔵書検索は、 著者名などの書誌情報から目的の文献を探すという、あらかじめ対象とする本が決まって いる場合に有効な方法である。しかし実際に公共図書館などで本を探す場合、必ずしも目 的の文献が決まっているとは限らない。図書の名前も検索のキーワードも知らないまま曖 昧な読書要求を持って本を探すことも多い。そういう意味においては既存の文字を中心と した検索方法では、このような状況に対応することが難しいと考えられる。
そこで本研究では、コンピュータグラフィックスを用いて「曖昧な読書要求を満たす検 索」「図書を眺め見て探す楽しみ」を利用者に提供できるような仮想的な図書館システムを 構築することで、曖昧な読書要求を持った利用者が実際に図書館を歩くような感覚で本を 探せるようにすることを目的とした。
本システムを実現させるにあたり、動きのある3次元空間をマシン環境に依存すること なくインターネットを通して公開することができるVRML(Virtual Reality Modeling Language)という技術を使用した。VRMLでは、利用者はマウス操作によりVRMLで作られた 世界の中を自由に動き回ることができる。また、VRMLに加えC言語によるプログラムをCGI として実行させることで、検索や配架変更など様々な機能を実現させた。図書は実際の大 きさや色を反映した3次元CGで表示され、配架場所はプログラムにより計算される。VRML ファイルやHTMLファイルの多くは、プログラムにより動的に生成されるようにした。図書 データの入力にはJAPANMARCデータを利用できるようにし、手間を省けるようにした。 本システムには著作権上の問題、データ入力の労力の問題などから図書の全文を提供で きないため、ぱらぱらめくりながら中身を見ていくようなことができないなどの問題点は あるが、来館困難な人などへの利用者層の拡大、配架ミスの防止、蔵書スペース問題の解 消など多くの利点が考えられる。また、将来的に一次情報の提供や電子出版への対応、参 照関係の付加などが可能になれば、より便利な仮想図書館が提供されるようになるものと 考えられる。