物性論におけるバンド構造の細密化に関する研究

平川 輝

 物性論は量子力学や統計力学などの知識を用いて様々な物質 の性質を明らかにすることを目的としている。物質の性質を決 める重要な要素の一つにバンド構造が挙げられる。物質の性質 の種類には磁気的性質や電気的性質がある。これらの性質は実 験により知ることも可能であるが、バンド計算の結果から知る こともできる。バンド計算とはk空間における電子のエネルギ ー状態を計算する方法であり、この計算結果から得られる電子 の構造をバンド構造という。このバンド構造からはk点(波数 空間での座標)における電子のエネルギー状態を表したバンド 図や、あるエネルギー状態の電子の数を表す状態密度のほか、 k空間において電子が占有している領域を示すフェルミ面など も求めることができる。
 バンド計算を行う様々なシステムが開発されているがその計 算方法は非常に複雑なものである。バンド計算の精度を上げる ために与えるk点のデータの数を増やすとその分計算に時間が かかる。減らすとバンド構造の精度が落ちてしまう。そこで、 計算点が少ないときの結果をもとにして、補間法を用いて計算 点が多い場合の計算結果を近似できるようなシステムを構築す る。
 様々な粗さのメッシュで実際にバンド計算を行い、本システ ムで得られた結果を数値・バンド図・状態密度・フェルミ面等 で比較した。作成したシステムを利用することで、粗いメッシ ュの計算結果を利用して細かいメッシュの計算結果に近い結果 を得ることができた。エネルギーの場合での最大誤差は、 0.019Ry、誤差平均は0.002Ryほどのものであった。また、計算 時間は細かいメッシュでバンド計算を行う場合の70%〜80%ほど 短縮することができた。実際には単に補間するだけでなく、結 晶の対称性なども考慮した補間を行う必要があるが、ここでは 考慮していない。
 現段階の問題点として、補間に使う点の選択の方法が挙げら れる。本システムでは補間で得た点を使ってさらに補間をして いる場合がある。また、補間に使う点の選択が自由にできない ため、様々な方向から任意の点を使って補間することで誤差を 小さくする余地が残されているかもしれない。また、結果を比 較する際に、一度ファイルに出力してから別のツールを使って グラフ等を表示するため、ひとつのシステムとしてまとめて処 理することができればより使いやすくなると考えられる。
 今後の課題として、結晶の対称性を考慮した補間やより多く の結晶構造に対応できるように拡張することなどが挙げられる。

(指導教官 松本 紳)