フェルミ面の断面図の自動生成と断面積の計算システム
富山美咲
金属の電気的・磁気的性質を決定するもののひとつにフェルミ面がある。
k空間(波数空間)においてエネルギーがフェルミ・エネルギー(フェル
ミ準位)に等しい面をフェルミ面という。金属に電場や磁場を加えたとき、
あるいは温度変化があったときに、反応するのはフェルミ準位付近の電子
だけである。従って、物質のメカニズムを解明するためには、フェルミ面
付近の電子の振る舞いを詳細に調べる必要性がでてくる。そのためフェル
ミ面の形状を知ることは、金属の物性を研究する上で重要な役割を果たし
ている。
フェルミ面を実験的に求める方法のひとつにド・ハース-ファン・アルフ
ェン効果と呼ばれるものがある。ド・ハース-ファン・アルフェン効果と
は物質に対して外部磁場を作用させたときに観測される物理量に生ずる
振動現象のことで、その振動数から磁場に垂直な方向のフェルミ面の断
面積などの情報を得ることができる。この実験において磁場をあらゆる
方向に取ることによってフェルミ面の形状をある程度知ることができる。
しかし実際にはこの情報からのみでフェルミ面の形状を再構築すること
は必ずしも容易ではない。そこで、本研究では電子状態を計算で求め、
ド・ハース-ファン・アルフェン効果での結果と比較しうるように、各
方向に対するフェルミ面の断面積の変化を求め、コンピュータグラフィ
クスを用いて既約領域(対称性を考慮した最小の領域)内のフェルミ面
の断面がどのように変化するのかを連続的に表示できるシステムを構築
した。
入力データとしてエネルギー固有値、座標、対称変換行列、フェルミ・
エネルギー値といったデータを用いてフェルミ面の表示を行った。ただ
し、結晶構造としては面心立方構造(fcc)や体心立方構造(bcc)などいく
つかの種類が存在するが、本システムでは六方最密構造(hcp)をとる物
質にのみ対応している。このフェルミ面の断面表示システムの入力デ
ータの例として、Mg、Ti、Sc、スピン偏極したCo(強磁性体Co)を用意し
ているが、他の六方最密構造をもつ金属であれば同様にフェルミ面を表
示することができる。システムの機能としてバンド変更、表示断面変更、
切断方向の変更等があるが、これらもマウスによるボタン操作で簡単に
行えるようにした。また、各バンドにおける断面積の極大、極小値と切
断方向に対する断面積の変化をグラフで表示した。
現段階の問題点としては、切断方向を任意に設定することができない
ことが挙げられる。これは面の計算に固定のメッシュを使用しているか
らであり、任意の切断方向に対応するためには別のメッシュを決め、そ
こでのエネルギー値などを内挿法等を用いて計算する必要が出てくるか
らである。
このシステムによりフェルミ面の断面積とその極値等を容易に知ること
ができ、金属のフェルミ面研究に役立つものと考えられる。今後のシス
テムの拡張としては、面心立方構造、体心立方構造など他の結晶構造に
も対応できるようにすること、また切断方向を任意に設定できるように
すること等が望まれる。
(指導教官 松本 紳)