CGによる陽電子2次元角相関図の表示システム

佐藤かよこ

自然界に存在する物質の多くは、原子の集まりで構成されている。 物質の性質を決定しているのは、その原子を構成している電子の ふるまいである。電子のふるまいは、電子力学で説明され、それ に関する様々な研究が行われている。 電子状態を調べる方法の1つに、フェルミ面と呼ばれる物理量の 研究がある。このフェルミ面観測手段の有力な方法の1つとして、 陽電子消滅がある。陽電子2次元角相関では、2次元座標とそこ に投影された固体中の電子の運動量密度分布が与えられ、それを 表現するためには3次元モデルが必要となる。
物理量を3次元的に表現する場合、従来は、模型を作ったりある いは2次元的に投影して表現していた。しかし模型を作るのは労 力と時間を要し、必ずしも一般的ではない。一方、2次元投影で は死角になる部分が生じ、全体像を把握するためには複数の図が 必要があったりと、不便なところも多い。そこで本研究では、3 次元コンピュータ・グラフィックスを用いて、3次元的に表現さ れる物理量を表示するシステムを作成することを目的とした。今 回は特に、陽電子消滅2次元角相関の理論計算データをインタラ クティブに様々な角度から解析できるようなシステムを構築した。
本研究で作成したシステムは、バナジウム(V)とクロム(Cr) のそれぞれについて、陽電子消滅による運動量密度分布の理論計 算データを入力し、3次元CGを用いて3次元的にそれを表示させ る。さらに、機能を付加したボタンを利用してインタラクティブ に解析を行うことができるシステムである。一般に、陽電子消滅 による運動量密度分布は、透視図法あるいは等高線で表現される ことが多いが、本システムではユーザーが、この両方を選択する ことができるようにした。また、任意の方向の断面表示や、LCW 定理による畳み込んだ図(LCW図と呼ばれている)も表示できる ようになっている。
問題点として、処理速度が遅いこと、オブジェクトのズームがで きないこと等があげられる。また、改良点として、今回用いた陽 電子消滅による運動量密度分布の理論計算データのみでなく実験 データも用いて、両者の比較検討を同じウインドウ上で行うこと ができれば、より有用なシステムとなるであろう。


BACK