図情メディア研究科パンフレット2015
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13学位論文(2013年度修了) フランスは、資格・学歴に基づく職業階層が明確に規定され、国の定めた職階制に応じた人事処遇がなされる国である。図書館員にあって、この資格・学歴による階層構造の上位に位置づけられるのは、上級司書(conservateur)と呼ばれる図書館運営機能を担う管理職である。 本研究は、このような上級司書に着目し、文化資本の提供機能を有する図書館が、上流階層と結びつき発展してきた歴史と、その担い手である上級司書が、文化的再生産の過程を経て選抜、養成される実態と課題を、インタビュー調査と質問紙調査で実証したものである。 その内容としては、第一に、フランス革命期に貴族や僧院から没収した貴重本を収納する国立図書館や、国が指定する地方の市立図書館、そして、蔵書の貧弱さや財政難などの課題を抱える大学図書館の歴史的経緯と現状を明らかにした。また、学術図書館と対比的に、後発を余儀なくされた近代的公共図書館については、民衆図書館設立運動、米国の公共図書館思想の影響、国民教育省図書館・公読書局創設による近代化、メディアテークと呼ばれる文化施設の創設など、1960年代の大衆文化の成熟によって充実に至る系譜を考察している。 第二に、上級司書養成機関として、1821年に創設され、名門グランゼコールとして現存する国立古文書学校、米国の影響を強く受けた1963年創設の国立高等図書館学校、そして、国立古文書学校卒業生を取り込み、国立高等図書館学校の発展型として創設された1992年の国立図書館情報学高等学院(ENSSIB)の三つの学校の特徴と、上級司書養成制度が一元化されるまでの変遷を考察した。その上で、現在、国の唯一の上級司書養成機関となった国立図書館情報学高等学院(ENSSIB)の教育の有効性を、調査に基づき検討した。結果、学生内部に、①国立古文書学校卒業生、②上級司書外部試験合格者、③教員などの転職制度である上級司書内部試験合格者、そして、④現職図書館員の中の昇進対象者といった四つの下位集団があり、異なる経歴、教育ニー博士(学術)ズ、配属先に応じてカリキュラム改善が試みられていること、また、教育内容の如何を問わず、一カ所で一定期間集中して教育することが、上級司書としてのアイデンティティを付与する機能を持つことを明らかにした。 第三に、以上のフランスの図書館の社会的土壌と上級司書養成の制度を踏まえた上で、図書館種の異なる8名の上級司書のライフストーリーを分析し、最終的に、親の学歴・職業に同形の文化的再生産は、競争試験で入学する上級司書試験合格者よりも、選考入学する国立古文書学校の卒業生に顕著であること、また、専門職としての上級司書の社会的イメージは、伝統的グランゼコールである国立古文書学校の卒業生に牽引されていることを検証している。(研究指導担当教員 溝上 智恵子)フランス社会における上級司書養成制度の考察岩崎 久美子リヨン郊外にある国立図書館情報学高等学院(ENSSIB)建物

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