第二部会(25日)

教育用検索支援インタフェース(CASSYS)の開発とウェブ検索初心者の検索過程に関する研究

河西由美子(東京大学大学院学際情報学府博士課程)

(1)研究目的: 本研究では、高校生のウェブ検索過程に関する実証研究(第50回研究大会にて発表済み)より得られた基礎データに基づいて開発した、ウェブ検索初心者を支援するインタフェースの使用実験を通して、これまで明確でなかった初心者のウェブ検索の過程を可視化し、そこから得られた検索過程のデータ分析を通して、検索支援を考える際の重要な要素を提示することを目的としている。

(2)研究方法: 本研究は、1)検索支援のためのインタフェース開発と、2)その使用実験に見るユーザ行動の分析という2つの段階を有している。この2つの段階は、研究手法においては、従来情報探索研究において別個に捉えられていたシステム・アプローチとユーザ・アプローチの統合を目指した、いわば循環的なアプローチと呼ぶべきものである。インタフェースの使用実験においては、高校1年生約200名のウェブ検索過程のログおよびインタビュー、質問紙調査等のデータに対し、定量的・定性的分析を行う。

(3)予想される成果: 2003年6月に高校生約200人を対象にCASSYS(Collaborative Keyword Assisted Search System) の実証実験を行なった。その実験データは2003年8月現在分析中である。CASSYSにおいては、あるコミュニティ内におけるウェブ検索エンジン(グーグル "google" を使用)で使用された検索語をデータベースに蓄積し、検索エンジンによる検索結果表示と並行して、JAVAのアプレットを用いてマップのイメージで図示する機能を特徴としている。検索初心者は、可視化された他者の検索語情報を参考に、次の検索語の発想や選択を行う。約200名の被験者の検索過程の画面推移のログを画像データとして記録している。検索過程の発話プロトコルデータおよび検索後の使用感に関する質問紙調査も採取した。

約20名の被験者への事後インタビューでは、1)他者の検索語を流用するというよりも、それを参考に自らの検索語を発想する、思考する、等の行動が見られること、2)他者の検索語などの参考情報が存在するほうが、検索語選定の際の時間が短縮される傾向が検索者に自覚されていること、3)他者の検索語などの参考情報の表示の方法として、図示による表示が検索初心者にとって一定の効果があると自覚されていること、等がこれまでにわかった。

研究大会当日までに全実験データの分析を行い、得られた知見を会場にて発表する予定である。これらの知見を総合し、検索初心者の支援としてどのような情報提供の内容とその方法が効果的か、をさらに深めていきたい。

学校図書館におけるメディア・リテラシーの現れ方 ―司書と生徒の会話を手がかりに―

松田ユリ子(神奈川県立大和西高等学校)

(1)研究目的

本研究は、学校図書館で生起する司書と生徒の日常的な会話において、「メディアの意味や構造を読み解き、メディアによって自らを表現することによって、新しいコミュニケーションを切り開いていく活動・営み」つまりメディア・リテラシーがどのように行われているかを探索的にとらえ明らかにすることを第一の目的として行った事例的研究である。

(2)研究方法

学校図書館における司書と生徒の会話を録音・分析し、そこから得られた諸活動の特徴の中から、メディア・リテラシーを示唆する営みとしての「批評」というカテゴリーを抽出し分析した。

(3)得られた成果

学校図書館における司書と生徒、または、生徒と生徒のやり取りには、メディアの「批評」と呼べるような活動が頻繁に見られた。その「批評活動」は、「自覚されない批評」と「自覚された批評」に大別される。「自覚されない批評」は、あるメディアについて、生徒がそれと気付かずに評価付けを行い、司書、あるいは他の生徒がその評価付けを読みとる場合の「批評活動」である。その前提には、司書の、生徒が求める情報・メディアの提供への志向があり、生徒の「自覚されない批評」は、顕在的な生徒のメディア要求のみならず、潜在的なメディア要求をも司書が把握する契機となっていた。

一方「自覚された批評」は、あるメディアについて、何故、どのようにおもしろいと思ったかというような評価の根拠が言語化して示されており、かつ「批評」する側が「批評」していることを自覚している場合の「批評活動」である。この「自覚された批評」は、対象のメディアについて「批評」を語りたいという生徒の主体的な動機に対して、批評を批評として聴く受け手がいることを明らかにすることによって起こっていた。

そして、一旦「自覚された批評」が起きると、そこには「批評の共有コミュニティ」ともいうべき共同体が形成されていた。 学校図書館で形成される「批評の共有コミュニティ」は、特定のメディアに対する批評を意識化し共有する共同体であると同時に、さまざまな批評の選択可能性を意識化するための共同体でもある。

このことは、この共同体の形成がメディア・リテラシー概念を性格付ける「批判的リテラシー」を含んでいることを示しており、「批評の共有コミュニティ」の形成が、学校図書館におけるメディア・リテラシーの活動であることを示唆している。

都市型公共図書館における登録者の類型別図書館利用行動−北広島市図書館登録者調査を事例として−

河村芳行(北海道武蔵女子短期大学)

(1)研究目的

本研究は本格的な図書館を建設して開館5年目を迎えた北広島市図書館(北海道)を事例として登録者調査を行うことにより、今後の高度な図書館サービスの一層の平等化と効率化を図る計画指針を見いだすことを目的としたものである。

本報告では、昨年の来館者調査に引き続き、本年6月に実施した登録者調査の結果を報告する。

(2)研究方法

調査は、北広島市図書館の協力のもと、13歳以上の登録者17,480人の中から無作為に約10%抽出した1,881人に対する郵送アンケート方式にて実施した。昨年実施した来館者調査結果との比較も含めて分析する。

具体的には、調査の結果に基づき、登録者の属性と利用図書館の選択状況についてまとめる。続いて、登録者がいずれのサービスポイントを選択して利用しているかを軸として、@利用者を自宅と利用館との距離により分類し、Aその分類ごとに利用者の属性と選択理由、B利用館選択の前提となる各分館(図書室)に対する名前と場所の認知度、C利用状況、D利用している図書館に対する評価、等をまとめ、図書館の運営システムとして整備が進んでいる複数分館設置都市における図書館の利用者の利用館選択行動と意識とを考察する。

(3)予想される結果

都市型公共図書館においては、市町村の枠を越えての利用が活発である。これは、今後の分担収集・施設開放などにおける機能役割分担の可能性を示しているが、図書館設置位置は都市中心部の交通の便の良い場所であることが条件となろう。なぜならば、地方(周辺地域)から中心部への交通の便は比較的整備されているが、地方から地方への交通の便は未整備なことが多いからである。昨年実施した来館者調査結果からは「来館者の自宅住所の比率は登録者全体の比率に比べて、平日・休日とも市外在住者の方が高い。平日には北広島市内の学校に通学する市外在住の女子学生が、休日には平日に図書館を利用できない市外在住の男性勤務者が図書館を利用している。」という結果が得られているが、登録者調査を通じてこのことに関してさらに考察を加えると共に来館者調査結果と比較検討する。

学校図書館に対する外部サポート−連携体制の構築に着目して−

泉山靖人(東北大学大学院教育情報学研究部)

(1)研究目的:今日の教育改革の中で地域の教育資源の活用は、学校教育の 上で重要な要素となっている。これに関連して、情報ネットワークの構築などによ り学校図書館相互の連携システムも増加している。また、学校図書館法改正の結果、 司書教諭の配属等については改善が見られる。一方で公共図書館の情報化も進んで おり、社会教育サイド・学校教育サイド双方に人的あるいは施設面での措置がとら れている点で、公共図書館と学校との連携は、他の社会教育施設と学校との連携と は異なる様相を示すと言える。

しかしながら、小規模校における司書教諭の配属は少なく、また、地域によって は学校数の問題などから学校図書館相互の連携もスケールメリットが生じにくく、 公共図書館等との連携に頼らざるを得ないケースがある。

このことから、公共図書館と学校図書館との連携事例において、個々の状況に応 じたそれぞれの「役割分担」の分析を通じ、現代の教育状況下における学校図書館 の課題を明らかにすることを目的とする。

(2)研究方法: 学校図書館に対する公共図書館の支援が行われている地域を事 例として、教育委員会等の関連部署に対する訪問調査を行った。

調査にあたっては、文部省(当時)の「学校図書館情報化・活性化推進モデル地 域事業」および文部科学省の「学校図書館資源共有型モデル地域事業」の指定を受 けた事例から対象地域を選択している。これらの事例でも、当該事業の直接の担当 部署のほか、社会教育担当部署等にも調査を行っている。

本発表においては、訪問調査した中から2〜3の事例を取り上げる見通しである。

(3)得られた(予想される)成果:

これまでの調査では次のような点で課題が見られた。これらに対するサポートを 担うのは学校/公共図書館/外部などのいずれであるのか、今後さらに検討を加え ていく。

1.情報化に関する問題:データベースの構築・運用における現場レベルでの能 力の問題。および、データベース自体が統一的に利用できない事例。

2.公共図書館の受け入れ上の問題:公共図書館が学校の要望に応じる上での、 対応能力の問題。

3.司書教諭制の持つ課題:図書館専従でないことによる、業務上の問題。

4.小規模校における問題:主に人的な側面における運用体制の弱さ。

1949年学校図書館基準の作成と改訂

篠原由美子(図書館情報大学大学院)

(1)研究目的

本研究は,第二次大戦後の1945年8月から学校図書館法が成立するまでの約8年間を対 象に,日本の学校図書館の出発期を検証する研究の一環として行うものである。

さきに,文部省が学校図書館の最初の指導書として発行した『学校図書館の手引』に ついて,作成された経緯および特徴について調査研究し発表した。本研究では,『学校 図書館の手引』発行以降の文部省の施策や,文部省の諮問機関の作成した学校図書館基 準類に焦点をあて,学校図書館振興の指導的役割を果たした人々や団体が,この時期に 学校図書館をどのようにとらえていたか,それらをとりまく背景にはどのようなことが あったかなどについて考察しようとするものである。

「学校図書館の手びき」および「学校図書館基準」類に関する先行研究には,北嶋武 彦,堀川照代,山田康嗣らのものがある。本研究は,「学校図書館のてびき」「学校図 書館基準」の内容を検証する点ではこれらの研究と重なっている。しかし,北嶋らの研 究が「手びき」や「基準」の変遷をたどり,その特徴を明らかにすることで学校図書館 の活動に資すること(あるいは教育に資すること)にねらいがあるのに対して,本研究 は終戦時からの学校図書館の出発時期の性格を明らかにすることで,今日の問題の根源 を理解し,今後の学校図書館のあり方を求める手がかりをつかむことをねらいとしてい る。

(2)研究方法

この時期の検証は十分行われてきたとはいえない。そのため,発言者や記録者のこと ばがそのまま鵜呑みにされている面がある。本研究では,GHQ/SCAPのCIE文書やトレーナ 文書も参考にしながら,この間の事情を確認・検証することにする。

調査の軸に据えるのは,1949年に文部省の諮問機関の学校図書館協議会が答申した学 校図書館基準である。その成立の背景,および改訂の変化を改訂案も含めてていねいに たどりたい。

(3)得られた(予想される)成果

学校図書館基準作成の事情、背景を調査・考察することで当時の学校図書館関係者の 学校図書館に対する考え、態度を知ることができる。また,基準を作成する際に参考に されたというアメリカの学校図書館基準と比較することで、日本の学校図書館の特色を 知ることができる。

日本の学校図書館基準は,アメリカのそれを参考に作成された。しかし1949年の学校 図書館基準には,アメリカの学校図書館基準類に示されている学校図書館は奉仕機関, 指導機関(読書センター等)であるという枠組みがない。学校図書館が奉仕機関と指導 機関であるという枠組みが示されるのは,1952年以降である。この時期になって,今日 につながる枠組みが形成されたと考えられる。

学校図書館基準の内実を獲得していく要求が最終的に学校図書館法制定にむすびつい たことを考えると,学校図書館基準をたどる意義は大きいと考える。

司書教諭が行う読書指導の独自性:国語科教育における読書指導との違いから

若松昭子(琉球大学教育学部)

(1)研究目的:新学習指導要領では図書館の活用に関する記述個所が以前に比べ て大幅に増えた。児童生徒の犯罪や教育病理現象が増加し、子供たちの心の教育が重 視されている社会状況のもと、読書指導の重要性は高まっている。また、今年度から 司書教諭の配置も本格化し、司書教諭による学校図書館の充実も期待されている。し かし、司書教諭配置によって学校図書館の活動が活発化することは望ましいと考えら れることはあっても、そのことが直接、現在の学校教育現場における司書教諭の必要 性に対する認識を高めることにつながるとは思えない。なぜなら、日本の学校図書館 においては、司書教諭不在の長い歴史があり、これまでは教科担当の教師が司書教諭 に代わって、図書館利用指導を担ってきた。例えば、読書指導は主として国語科教員 によって、文献の調べ方等の指導は社会科や理科の教員によって、情報リテラシーや コンピュータ・リテラシーの指導は技術科や数学科の教員によって、また小学校では 主として図書館の係り教師によって指導が行われてきた。彼らも含めて一般の教師た ちは、学校図書館法の改正によって一定規模以上の学校に司書教諭が配置されるよう になったからといっても、司書教諭の行うべき利用指導の内容と教科の中で従来行っ てきた利用指導の内容との具体的違いについて、俄かには明確で適切な認識を持つこ とは難しいのではないだろうか。

例えば、国語科においてブックトークを扱う場合と、学校図書館がブックトークを 行う場合、両者の違いはいったいどこにあるのだろうか。また、社会科で扱う文献調 査と、司書教諭が行う文献調査の指導方法やその内容は、何が違っているのだろう か。こうした違いは、現場の教師だけではなく司書教諭を養成する側にもあまり明確 に認識されていない様に思われる。しかし、教科における指導内容と境界線があいま いになりがちなこれらの領域について、司書教諭の責任やその役割の独自性をより強 く打ち出していかなければ、司書教諭の必要性を充分説明することができず、ひいて は学校図書館の活性化の道が再び後退してゆくことになるとも限らない。ましてや、 「自ら学ぶ力」の育成をスローガンにおいていた「ゆとり教育」重視の学習指導要領 が、学力低下批判を受けて再び系統的学習や知識偏重教育へ向かうのではないかとい う危惧が高まっている現在ではなおさらである。教科教育との関連において司書教諭 の行うべき指導内容の独自性を明確にし、学校教育の中に位置づけることが必要であ る。そこで、本研究では、国語科で行う読書指導と図書館が行う読書指導をとりあ げ、両者の違いや各々のめざすべき目標について、教師たちの意識や実践の現状を明 らかにしつつ、今後の課題を考察する。

(2)研究方法:文献調査およびアンケートやインタビュー調査によってそれぞれの 立場からの読書指導の概念や具体的な内容、及びそこに存する問題点を明らかにす る。

2.1 文献調査:主として国語科教育および司書教諭関連科目のテキスト等から読書指 導に関する定義や概念、また具体的な指導内容等について概観し整理する。

2.2 アンケート調査

@司書教諭資格を持つ(あるいは取得中の)現職教員・教員志望の学生:国語免許を 持つ教師・他教科の免許を持つ教師

A司書教諭資格を持たない教員(あるいは教員志望の学生):国語科・他教科

2.3 インタビュー調査

@司書教諭
A国語教師
B国語以外の教科教師
C国語科教育関係科目担当の大学教員
D学校図書館関係科目担当の大学教員

(3)得られた(予想される)成果

国語科教育と図書館でのそれぞれの読書指導の内容や方法について、司書教諭と教科教 諭の意識はどのように異なるか、目下、調査中であり、全体的な結果についてはまだ 提示することができないが、教科教師の場合は、司書教諭(あるいは資格を持つ)教 師に較べ、図書館における読書教育の内容や範囲を限定的に捉えているのではないか と予想される。

学校図書館の活性化にむけた校長の課題意識--活性化を阻む課題と取り組みの方向性を中心に--

矢野光恵(広島大学大学院・研究生)

1 目的

本研究の目的は,校長から見た学校図書館の活性化にむけての課題並びに今後の取 り組みの方向性を考察することである。

2 研究方法

2001年に,岡山県下の小学校,中学校,高等学校の学校長と校務分掌で図書館係の 担当の教師を対象として,悉皆調査を行った。その中から,まず校長が学校図書館の 活性化を阻む課題をどのように捉えているか,二番目に自校で学校図書館の活性化に 取り組む場合何から取り組むかに関する記述を具体的に列挙し,その課題を考察する。

3 分析の視点と枠組み

1)図書館の人的要素,2)図書館資料,3)図書館施設,3)財的要素,4)経営的 要素5)その他学校図書館をとりまく問題という視点より,11項目からなる分析枠組 みを設定し,考察する。

4 予想される成果

学校として抱えている課題,これからその課題にどう取り組もうとしているか,校 長としての力量が問われる課題等について発表したい。

詳細な報告は発表にゆだねるが,次のようなことがあげられる。まず,人的側面を 課題とする傾向が強かった。図書館に専任で人が欲しいという要望に加えて,図書館 の専門家としての期待があるように思われる。予算が不足しているため必要な図書や 資料の購入ができないという記述も多く見られる。

経営的要素について最も課題となるのは,体制づくり・理解・協力であった。しか し,とても取り組みにくい問題であると校長に認識されているようである。

全体を通してみると,「課題としてとらえていること」と「まず始めに取り組もう とする課題」とが一致する割合は極めて低い等が注目すべき点と考えられる。

盲学校図書館における地域の視覚障害者への図書館サービスの構想と展開−「学校図書館法」成立前後から1960年代の検討を通して−

野口武悟(筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士後期課程)

(1)研究目的

これまでの学校図書館に関する研究は、小学校、中学校、高等学校を研究対象としており、盲学校を対象とした研究は、ほとんど行われていない。一方、公共図書館に関する研究では、障害者サービスや点字図書館の研究など障害者と公共図書館に関する研究が多数存在しており、学校図書館に関する研究動向と対照的である。現在、盲学校は、地域に開かれた障害児・者のセンターへと転換しつつある(センター化構想)。こうした動向のなかで地域での図書館活動を視座に学校図書館の役割を再検討する必要に迫られている。

この地域との関わりについて、すでに1950年代、60年代の盲学校図書館が、地域の視覚障害者へ点字図書の貸出を行う等の現在の公共図書館の障害者サービスや点字図書館サービスを行っていたことを実践報告等から散見できるが、その詳細は解明されていない。そもそも、盲学校図書館は、1953年公布の「学校図書館法」を契機として、全国の盲学校に設置されることとなった。しかし、この「学校図書館法」前後の盲学校における学校図書館づくりの動きや学校図書館に期待された役割など実態は未だ詳らかでない。

そこで、本研究では、盲学校図書館における地域の視覚障害者に対する図書館サービスの構想と展開を中心に、「学校図書館法」成立前後から1960年代に至る盲学校図書館の実態を明らかにすることを目的とする。また、関連する公共図書館の障害者サービス、点字図書館の動向についても併せて検討を行う。

(2)研究方法

本研究は、文献研究である。用いる文献は、全国学校図書館研究大会の報告集『全国学校図書館研究大会研究集録』、全国学校図書館協議会の機関誌『学校図書館』のほか、図書館界、盲教育界の資料を中心とし、文部省、厚生省の行政資料や個別学校の記録等も必要に応じて用いる。分析の視点としては、学校図書館に関する@運動・思潮、A教育行政、B実践の3点とする。

(3)得られた成果

本研究の結果、「学校図書館法」成立期の盲学校図書館に期待された役割として、地域の視覚障害者への図書館サービスが位置づけられていたことを明らかにした。

当時、点字図書の出版点数も少なく、また墨字図書(一般印刷図書)の数倍もする高価な点字図書を個人で購入、保有することは難しく、視覚障害者にとって読書機会の確保は切実な問題となっていた。栃木県立盲学校長の「公共図書館的使命をもつべきである」という言のように、盲学校図書館に対する期待は高まっていった。1956年7月に文部大臣の諮問機関「学校図書館審議会」の最終報告書にも、「地域の盲者・ろう者に対する図書館奉仕を拡充すること」が謳われていた。加えて、前年1月からは、「身体障害者福祉法」に基く厚生省更生援護事業の一環として、厚生省指定点字図書館を支援するシステムが開始された。この指定図書館には、盲学校図書館(委託・併設あわせて)13館が指定を受け、図書館サービスを通した地域の視覚障害者福祉の増進という使命を帯びていたのである。

こうした動向から、全国の盲学校図書館では地域の視覚障害者への図書館サービスを展開したが、利用は振るわなかった。そこには、@学校の敷地内に建てられたことによる要因、A蔵書構成の理療関係(三療:はり・きゅう・あんま)への偏りという要因が大きかった。つまり、地域の利用者のニーズに十分対応できない状況にあったのである。点字図書出版数が限られたなかにあって、盲学校教育の特色ともいえる理療科教育に関する点字図書に偏ってしまうのは当然のことであった。当然、盲教育界、学校図書館界ともに国立点字出版所設立など点字図書出版の改善を文部省等に要求するも、実現をみなかった。すでに、1958年の「学校図書館負担金」の廃止など、学校図書館行政は厳しいものとなり、盲学校図書館の振興は望み薄の状況になっていたのである。

1960年代後半になると、盲学校図書館の地域の視覚障害者へのサービスを行うところは少なくなり、また議論自体も見られなくなる。結局、「公共図書館的使命」は、十分に発揮せざるままに挫折してしまったのである。時を前後して、地域の視覚障害者への図書館サービスは、増加する独立の点字図書館、そして1970年代に高まりを見せる公共図書館の障害者サービスに引き継がれていくのである。


JSLIS2003 第51回日本図書館情報学会研究大会