第三部会(25日)

長野県のPTA母親文庫の評価に関する研究:「読書普及活動研究委員会報告書」(1981)を中心に

石川敬史(工学院大学図書館)

PTA母親文庫(以下,母親文庫という)は,公立図書館が貸 出文庫の方法を用い,PTA会員に対して読書の条件整備と動 機づけを目的として行なう読書普及運動である。この運動は1950 年に叶沢清介(当時,県立長野図書館長)が発案した。

長野県の母親文庫の利用者は1961年に約9万人に達し,県 内各地で読書グループが組織された。しかし,1970年代以降, 全国各地で図書館づくり運動や地域文庫活動が広がったが, 母親文庫は長野県内の図書館づくり運動や市町村立図書館の 設置に必ずしも結びついたとは言えない。

そこで本研究では,これらの要因を探るため,まず母親文庫が 現在までどのように評価されたのかを検討し,その問題点を明ら かにする。

資料としては,1981年に長野県図書館協会公共図書館部会 読書普及活動研究委員会が刊行した『読書普及活動研究委員 会報告書:長野県PTA母親文庫の現状と課題』(以下,『報告書』 という)を中心に検討する。その理由として,この『報告書』は1980 年代に長野県内の複数の図書館員が今後の活動方針を明確に するために,これまでの活動や問題点を総括しているためである。 また,これを補足するため,長野県の母親文庫に関する論文や新 聞・雑誌記事,調査報告書などを収集し,その評価を分析した。

その結果,母親文庫の特徴として,T.研究者個人による評価は, 実証性に乏しいものの活動の長短が整理されていた。U.新聞・雑 誌記事や調査報告書では,母親文庫の成果が中心に紹介され, 肯定的評価が多かった。V.長野県内図書館関係者は,記述内容 の同じ文献が存在したが,問題点が具体的に整理されていた。

一方で,母親文庫は1950年代から60年代にかけて肯定的に評価 されたが,1980年代以降,否定的に評価されるようになった。しかし, 1980年代に『報告書』で総括された母親文庫の問題点は,すでに 1960年代において,一部の研究者や調査報告書により指摘されて いた。すなわち,母親文庫は1960年代以降,問題点が改善されてい なかった。

さらに『報告書』は,これまでの母親文庫の目的を時代背景に基づ いて検討していなかったことを認め,母親文庫は市町村立図書館が 実施すべきであると指摘している。また,利用者の図書館に対する 関心や配本図書の利用状況に関する言及が,研究者や調査報告書 との間で一致していなかった。

このように,母親文庫は,時代の変化とともに目的や方法,問題点 が十分に検討されず,活動状況も正しく認識されなかった。こうしたこ とは,さまざまな事業や運動の主催者・参加者が,その事業や運動に 対して肯定的立場を取るだけではなく,実際の活動を正しく認識し, 厳しい批判を持たなければならないことを示している。同時に,さまざ まな問題点や課題を指摘する場合にも,指摘することにとどまることな く,長期的視野を持ち,それらを克服する姿勢を示す必要がある。

図書館資料と博物館資料の識別方法における違いとその背景

菅野育子(愛知淑徳大学文学部図書館情報学科)

(1)研究目的

これまでに資料の識別に関する研究として,書誌的世界で提案された概念モデルである『書誌的記録のための機能要件』(Functional Requirements for Bibliographic Records,こののちIFLA/FRBRと略す)1)におけるwork概念の機能に ついて分析し,著作権管理の世界で提案されたコードであるISWC,ISTCのwork概念の機能と比較することから,書誌的世界における資料識別の重点 がどこにあるのか,またその背景を検討した。その結果として,(1)IFLA/FRBRは,情報源の識別に必要な情報の構造を4つの階層(work, expression, manifestation, item)に分けて,作品の著者名とタイトルを識別するwork概念を頂点として,その下に版表 示や言語表示を示すexpressionが連なり,さらにその下に物理的特徴や所蔵状況を記述するmanifestationやitemレベルを連ねたも のであった。(2)そのような構造は利用者が図書館資料をどのように探し求めるかに対応した情報源(図書館資料)の識別が行なわれものであり,この利用者 志向の考え方に基づくwork概念は,比較対象としたISWC,ISTCが反映する著作権管理の世界とは異なるものであり,書誌的世界で培われてきたカッ ター,ルベツキーから,英米目録規則,ISBD,そしてIFLA/FRBRへと引き継がれてきた目録理論を反映していることが明らかとなった。

本研究では,類似した資料の保存を行なってきた博物館における資料識別の特徴とその背景を明らかにすることを目的とする。さらにその結果を基に図書館資 料の識別と博物館資料の識別における違いを検討し,その違いが生まれる背景について考察する。

(2)研究方法

図書館資料と博物館資料を対象とした書誌記述に関する規則や基準を対象に分析する。図書館資料については,ISBD(International Standard Bibliographic Description:国際標準書誌記述),AACRII,IFLA/FRBRを分析する。一方,博物 館資料に関するものとしては,CDWA3),VRA Core Categiries4), CIDOC/CRM5)を分析する。方法としては,図書館資 料の書誌記述におけるwork概念と博物館資料の書誌記述におけるwork(美術・芸術作品)の扱い方に焦点を絞り,両者の資料識別の特徴を抽出するとと もに,その比較検討から相互の特徴を明確にする。さらに両者の違いを生み出す背景として,どのような考え方が関係しているのかについても明らかにす る。

(3)予想される成果

図書館資料の書誌記述においては,カッター以降現在まで一貫した理論的基礎を背景に,work概念を用いた資料識別が行なわれてきた。一方,博物館資料 の書誌記述においては,所蔵資料の管理を目的とした書誌記述方法の開発が個別に行なわれており,一貫した理論的枠組みを見いだすことはできない。しかし, CDWAにおけるパノフスキーの影響,VRA Core Categoriesにおけるwork typeの議論,そしてICOM/CIDOCの IFLA/FRBRへのマッピング,それぞれにおけるworkの扱い方の検討から,資料識別の考え方を明らかにすることができた。

引用資料

1)Functional Requirements for Bibliographic Records: final report. IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. Munchen,K.G.Saur,1998,136p.

2)菅野育子. IFLA/FRBRとISWC, ISTCのwork概念の比較. Library and Information Science. No.44, 2002, p.27-41.

3)Getty Information Institute. Categories for the Description of Works of Arts. [cited 2003-08-07] Available from<http://www.getty.edu/research/institute/standards/cdwa/8_printing_options/cdwa.pdf>

4)Visual Resources Association. Data Standards Committee. VRA Core Categories. Version 3.0. [cited 2003-08-07] Available from <http://www.vraweb.org/vracore3.htm#core>

5)International Council of Museum. International Committee for Documentation. CIDOC Conceptual Reference Model. Version 3.2.1. [cited 2003-08-07] Available from <http://cidoc.ics.forth.gr/docs/cidoc_crm_version_3.2.1.rtf>

1950年代韓国における図書館学の導入過程:アメリカの教育援助に関わって

゙在順(東京大学大学院教育学研究科)

(1)研究目的

韓国における図書館学教育が本格的に始まったのは,第4次アメリカ教育使節団 (一名「ピボディ・チーム」)の教育援助の結果として,延世大学に学部レベルの図 書館学科が設置された1957年からである。ピボディ大学教育使節団は,アメリカ国際 協力庁(ICA: International Cooperation Administration)との契約の下で1956年 から1962年までの6年間,韓国の「教師教育の改善」のため派遣された。言い換えれ ば,韓国の図書館学教育はアメリカから導入されたものであり,教師教育の改善の一 環として行われたのである。

これに関わる主要な先行研究としては,Beack, Jeong Ok(1978),Um, Young Ai (1984),Cho, Chansik(1995),李秀相(1998)がある。Beackは現在の図書館問 題と将来への提言に重点を置いており,Umは韓国や日本,台湾の3か国の図書館学教 育の比較研究を行っている。Choは,韓国におけるライブラリアンシップの発展史を 歴史的文脈で論じているが,いずれにしても,1950年代の図書館学導入時期に関して は,あまり深層的な研究がなされていない。これらに対し,李は,この時期に注目し てかなり深く分析しているが,韓国資料以外は2次資料だけを使っていることなど, 必ずしもその導入背景について明らかに解明しているとはいえない。

本研究は,このような点に着目し,より直接的に関わった人物を探し出してイン タビューを行い,なお,韓国にはない新しい1次資料の発掘にも努め,韓国における アメリカの教育援助に関わる図書館学の導入背景やその過程を明らかにしようとする ものである。

(2)研究方法

研究方法としては文献分析法およびインタビューによる質的研究方法を用いる。

具体的には,イリノイ大学のALA アーカイブズに所蔵されているALAと韓国(主に 延世大学に派遣された図書館学専門家)との文通,第4次教育使節団として派遣され たピボディ大学の「Korean Project」の半年間の報告,延世大学所蔵の文書などを分析 する。インタビューの対象者としては,延世大学図書館学科の設置あるいは修了など に関わる5名の人物を選定し,今年4月から7月にわたってインタビューを行った。

(3)得られると予想される成果

韓国における図書館学教育の始まりについて,いままでの研究で明らかにならな かったことを解明する。特に,適切に選択したインタビュー対象者の証言を通じ,学 部レベルでの図書館学科が延世大学に設置された背景を分析し,また単なるアメリカ からの強い影響を論じるだけではなく,図書館学科の設置がアメリカの教育援助の枠 組みの中でどのように展開されたかを明らかにする。

思想の自由を基点とした図書館の自由の体系化

前田稔(筑波大学大学院博士課程)

本発表では、図書館の自由が日本国憲法体系のなかでどのように位置づけられるか を、アメリカにおける議論を参考にしつつ、日本の特殊性を加味して明らかにしたい。

『図書館の自由に関する宣言』の採択以来、半世紀にわたり自由確保への努力がな されてきた。自由は所与のものではなく、戦いを通じて獲得するものであることから すると、図書館界の活動は、日本国憲法第12条前段(「この憲法が国民に保障する自 由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」)の趣 旨に合致する。

もっとも、実践を通じた図書館界における浸透とは異なり、憲法学界における図書 館の自由への認識は乏しく、憲法理論の構築が遅れている。このため、法的根拠の不 明確さは否めず、裁判を通じて自由を確保してゆくことも難しいのが現状であり、図 書館の自由の法的解明が待たれる。

参考になるのは、アメリカ図書館界の知的自由をめぐる活動である。図書除去の是 非が争われた裁判を中心に、合衆国裁判所の判断が集積しつつあり、これらの裁判を 3つに分類してみる。1つめは、公立図書館における大人の自由が問題となった裁判 である。いくつかの裁判所はパブリック・フォーラム論により、思想交換の自由市場 として図書館を位置づけ、原則として自由な空間であると考えている。2つめは、公 立図書館における子供の自由であり、最近のフィルターソフトをめぐる裁判では一般 の法原則どおり子供の自由を狭く解釈している。3つめは、学校図書館における子供 の自由の問題であり、1970年代から1980年代初頭にかけて、図書除去の合憲性につい て合衆国裁判所は紛糾した。学校の教え込む機能からすると、子供の自由は公立図書 館の場合よりもさらに狭くなりそうに一見思える。しかし、むしろ本があらわす思想 が、受け入れがたく間違っていることを教え込む危険性を重視し、裁判所は図書除去 に一定の歯止めをかけた。3つに分けたこれらの判決から伺えるのは、個人の思想と 図書館とが密接な関連を有している点である。

合衆国裁判所の判断を参考にするならば、日本国憲法では第19条の思想の自由を中 心に図書館の自由を体系付けることが望ましい。図書館の自由は、平等権、信教の自 由、表現の自由、学問の自由、生存権、教育を受ける権利というかたちで具体化され るものの、思想の自由を基点とした説明を抜きに図書館の自由を解釈するべきではない。

すなわち、制度面からみると、図書館制度は個人の思想の自由を保障する制度であ ると考えられる。自由なアクセスの保障された図書館の存在自体が、思想の自由の保 障を公式的に示す効果を有する。仮に国家が思想統制に突き進んでいたとしても、自 由な図書館が1館存在するだけで、思想統制を無力にしてしまう。また、利用者の秘密 が守られないならば、図書館の思想統制に対する防波堤としての役割は無意味になる し、正当な理由を装ったアクセス妨害も許してはならない。

一方、思想の自由には内心の自由という側面のほかに、思想の自由な交換の保障と いう側面も有する。人間は一人では生きてゆけない点で思想交換は生存に不可欠であ る。さらに、主権を有する国民が、あらゆる思想について差別なく討論をし、意思決 定をおこなってゆくことは、民主主義の絶対条件をなしている。図書館は静かなる討 論の場として重要な役割を負っている。

日本学術会議の学術情報体制への貢献 ―文系学術図書館の初期と現状−

石川亮(実践女子短期大学 図書館学課程)

(1)研究目的

日本学術会議は長年にわたり図書館を含む学術情報体制へ多様な観点から関心を示し続けており、 政府を主とする関係機関に対して多くの勧告・申れ・要望などを提出をしてきた。 初期には昭和24・25年から図書館及び情報についての基本的な事項といえる次の4件を勧告・申入 している。「図書館法立案について(申入)」(昭和24年)、「抄録に関する事業の強化について (勧告)」(昭和24年)、「ユニオン・カタログについて(勧告)」(昭和24年)、 「学術情報所設置(インフォメーションセンター)について(答申)」(昭和25年) この後、図書館を含む学術情報体制について各種の勧告・申入をつづけてきたが最近でも次のよう に報告や声明を出している。
平成13年「データベースに関して提案されている独自の権利についての見解(声明)」
平成13年「情報化社会における政府統計の一次データの提供形態のあり方について(報告)」
平成12年「歴史資料の検証とその社会的活用について(報告)」
平成15年6月には「情報技術革新の経済・社会にもたらす影響」を報告しており 図書館情報学分野の研究者は関心を持たなければいけないだろう。 また同じ月に図書情報専門職員に隣接して「学術資料の管理・保存・活用体制の確立および 専門職員の確保とその養成制度の整備について」報告を行っている。 図書館情報学分野に対する影響を研究して、図書館を含む学術情報の分野との関わりを 見定めることが重要であろう。

(2)研究方法

昭和40年代に次のように文科系の学術図書館について勧告等を行っている。今回はこれらの3件を 受けてどのように実施され発展したかを明らかにしてみる。
@ 「国語・国文学研究資料センター(仮称)の設置について(勧告)」(昭和41年12月)
A「文献センターの充実について(申入)」(昭和43年5月)
B 「歴史資料保存法の制定について(勧告)」(昭和44年11月)
@は 「国文学研究資料館」が昭和47年に創設され「全国各所に所蔵されている国文学関係の 写本版本類を 原本あるいははマイクロフィルム等によって収集提供し][マイクロ資料目録、 和古書目録、国文学論文目録の 各データベースのオンライン検索サービス] をしている。ABについても変化もあるが同様の成果を挙げていることを明らかにする。

(3)得られた成果と今後の予想

この3件により確立された、それぞれの分野での専門図書館の資料収集・提供及び 情報技術を活用しての3種の専門図書館グループの貢献には大きいものがある。 日本学術会議の貢献はこの3件の経緯と成果をみれば明かである。 情報化社会へ急速な変化や情報洪水の現状において、国民の立場から図書館情報化をどのように 求められるかが今後の課題であり、公共図書館を含む図書館のあり方について 日本学術会議から今後の関与をどのように導き得るかが課題であろう。

唐代の木版印刷について

山口洋(中央大学文学部非常勤講師)

(1)研究目的

従来の研究では唐代の木版印刷については、出土資料(敦煌や四川からの出土品な ど)や編纂資料の分析から、かかる時代に印刷術が確立していたことや、その内容が 仏典や暦などが中心であったことや、印刷を行った書坊が都長安のみならず地方の四 川にまであったことが確認されるなどの成果が得られている。しかし、いまだその実 態が十分に解明されているとは言いがたい。また、初めに現れる摺経などの仏教関係 の印刷物から後の一般の印刷物(暦や書物)に至る経緯についても十分に説明されて いるとは言えない。そこで本研究では、唐代における木版印刷が如何なる状況にあっ たのかを特に仏教関係の印刷物に注意しながら考察し、私見を披露したい。

(2)研究方法

@編纂資料に対して印刷にかかわるキーワードを用いて網羅的に調査し、そこに現れ る事項について考察を加える。ここでは、唐代に編纂された典籍を中心に検討する。

A特に木版印刷が早期より行われたと見られる仏典関係の序跋記等に検討を加える。 検討仏典は仏教の中国伝来が確認される後漢以降、唐代までに中国において翻訳され た、または編纂された典籍を対象とする。

B上記の成果を利用して、唐代木版印刷の実態を考察する。

(3)得られた(予想される)成果

唐代の木版印刷物は、現存最古の印刷物である韓国慶州仏国寺出土の陀羅尼経をはじ め、日本の法隆寺収蔵の百万塔陀羅尼経など、8世紀以降、仏教寺院にかかわる印刷 物が多い。この事実から供養のための摺佛、摺経からはじまり、その技術が一般の印 刷へ利用されていったという過程が想定されよう。本研究では、従来あまり省みられ なかった仏典の序跋記を精査することにより、仏典の木版印刷を示唆する事例を示す と共に、なぜ仏典の印刷物が多いのか、そして仏教寺院と木版印刷との関係などにつ いて私見を述べ、摺経から仏典印刷そして一般の印刷への流れを考えたい。

戦前期における大学等の総合目録/目録規則策定に関する史的考察

志保田務(桃山学院大学)、北克一(大阪市立大学)

1924年、帝国大学附属図書館協議会、全国専門高等学校図書館協議会がそれぞれ結成された。続く1924 年には官庁図書館協議会が、さらに1927年には官立医科大学図書館協議会が設立されている。また、青年図 書館員連盟(The League of Young Librarians)が1927年に、東京私立大学図書館協議会が1930年に設立され ている。

この内、帝国大学附属図書館協議会は設立4年後の1928年、同協議会独自の目録規則を策定することを 決し、その後1942年までの歳月を費やしてその1編を策定した。また、青年図書館員連盟は1929年、目録規 則の起草に入り13年をかけて『日本目録規則1942』の策定に至った。一方、全国専門高等学校図書館協議会 は1925年に中島猶治郎、鞠谷安太郎に委嘱し、『目録編成法』をまとめ出版している。当時、大阪市北区に あった、間宮商店から刊行された『目録編成法』(図書館研究叢書第四編, 1926)がそれである。

収集資料も少ない"十五年戦争"のこの時期に、図書館関係諸団体が競い合うように、なぜ目録規則の策定 を進めたのか。この理由を、戦前期の高等教育機関附属の図書館団体における総合目録編纂事業の遂行努力 と、それを編纂する基盤としての目録規則策定行動を軸に、当該団体の議事録等の原資料を耕し、編纂過程 を検証する中で史的考察を行う。

またこれと共に、同時代の日本図書館協会「和漢図書目録法案」(1932)を議論の対応軸において、比較論 考する。

ところで、帝国大学附属図書館協議会は「和漢書目録規則 第1編」を1943年『図書館雑誌』2月号に発表 している。一方、青年図書館員連盟は同年3月『日本目録規則1942年版』を出版し、その4ヶ月後の7月に解 散した。戦時統制下、国が団体の合併を強要し、用紙の配給を制限したため機関紙の独自維持が困難になっ たことによる。

1945年、無条件降伏をした日本では、新しい目録基準の策定がアメリカの指導下に進んだ。新設・国立国 会図書館は新しく目録基準を設定し、再建された日本図書館協会は、新・目録規則の策定を急ぐ。  これらの設定・策定内容に、先行の目録規則が与えた影響を掌握すると共に、それらの源となった1920- 40年代の帝国大学附属図書館協議会、青年図書館員連盟などの目録関係活動とその成果に対して、改めて評 価を加えようとするものである。

楽譜資料検索過程に関する利用者調査

伊藤真理(愛知淑徳大学)、安藤友張(名古屋芸術大学附属図書館)

1.研究目的

本研究では,楽譜に着目し,利用者がどのようにして音楽資料検索を行ってい るのかを把握することによって、利用者にわかりやすく効率のよい検索ができる システムを提供することを目的とする。

2.研究方法

効率のよい音楽資料検索のために必要な要因を検討するために、利用者がどのよ うに楽譜を検索しているのかについて、米国で実態調査を行った。 調査対象者は,音楽を専門に研究している演奏家および研究者とし,大規模大学 の音楽学部大学院に所属する大学院生を対象とした。調査方法は質問紙法を用い, 2002年8月〜9月,2003年2月に,ウェブによるアンケートを実施した。検索質問 は,各被験者の研究に関連したもので,楽譜の検索を行うことを前提としている。 その結果,8館から72件の回答を得た(内、無効6件)。アンケート実施後,上 記被験者の内,45名に対してインタビュー調査を行った。インタビューでは,ア ンケートの不明・未記入部分の確認,検索語の選択,検索項目の選択について, 検索結果の評価では,どこに着目するかなどを質問した。

3.予想される成果

調査データの分析では,検索過程でどのような検索索引を用いたかを分析し,カ テゴリー化を試みた。また検索語についても分析を行い,どのような種類の用語 を検索語として選択しているかについて,検索索引と関連させて分析を行った。 その際に,利用者の検索結果に対する満足度にも着目した。

検索過程の一般的な傾向としては,キーワードが検索索引として頻繁に用いられ ていた。またタイトル検索を行う場合は,形式やジャンルといった曲種名などで はなく,固有タイトルを探す場合が多かった。人名の検索では,ほとんどが作曲 者名で検索しているが,民族音楽やポピュラー音楽では,演奏者名を用いていた。 またバロック、古典派時代の作品の検索以外では、楽譜が複数出版されることは ほとんどないため,資料の特性・版の違いなどを意識していなかった。図書館で 音楽資料の検索で有効な手段として提供されている統一タイトルはほとんど用い られていなかった。また被験者は作曲年と出版年が一致しないことを把握してい ないが,作曲年からの検索のニーズが高く,数字を使った検索(時代、作曲年の 検索)が試みられ,そのほとんどの場合成功していなかった。これは図書と異な り,楽譜資料の媒体としての特徴が影響している1例である。

インタビュー調査から,タイトルや作曲者名が定かではない場合,新たなレパー トリーを探す場合は,書架で直接ブラウジングするといった探索過程が,検索対 象分野や検索式の変更に影響していた。被験者の多くは事前に参考ツールで下調 べをして,必要な情報を入手した後,作曲者名とタイトルの特定的な検索を行う 傾向があった。

このように,エンドユーザーの検索の傾向やニーズが,必ずしも図書館側が提供 し,利用されることを期待しているとおりではないことが明確となった。これら のことから,今後新たに必要となる検索手段や,有効な検索補助ツールの提供方 法についての要因を検討することが可能となった。


JSLIS2003 第51回日本図書館情報学会研究大会